新庁舎建て替えの反省点。市長選での見直し事例も多く、市民の声を時間をかけて聞き取ることは重要。デザイン性より市民目線を。
こんばんは、最年少松本市議会議員の青木たかしです。
先日行った、新庁舎建設特別委員会による庁舎建て替えの視察報告を添付します。
行った先は、富岡市役所、町田市役所、茅ヶ崎市役所です。
全体を通して、以下のことを学びました。
・市長選によってその方針やあり方、建設費が見直されていること
・事業が遅れると、数ヶ月単位で労務単価が上昇し、建設費用が大きく上昇してしまう危険性があること
・CM方式という第三者企業によって建設費を縮減できること
・デザイン性より市民目線で使いやすい庁舎であることの重要性
・デザイン性と環境配慮による経費節約が、本当に実現されるかの検証
・松本らしさをいかに表現するか
・拙速に進めることなく、市民や関係団体の声を事前に丁寧に聞いておくことは重要。後で反省点として挙げることになってしまう
以下は、報告書の内容です。
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1,富岡市役所の建て替え
富岡市役所では、「市民とともに進化する安全安心な100年庁舎」を基本理念に掲げ、世界遺産登録された富岡製糸場に配慮した、市民と行政が一体となったまちづくりを目指す庁舎を建設した。松本市では現地建て替えとしていることから、世界遺産登録を目指す松本城への影響を懸念する声があり、視察先に選定されていると聞いている。
富岡市役所は「まちづくりのシンボル」「誰もが居心地の良い」「防災対策の拠点」「経済的で長寿命」という4点の基本方針を掲げて整備された。3階建てで、設計は、著名な㈱隈研吾建築都市設計事務所。また、自然を活かしたエコな庁舎として、以下の4点の特徴がある。
・庇と、富岡産材のルーバーを用いて、熱負荷を大幅に削減。見た目にも木目調でうつくしい。ルーバーにとって38%の熱負荷削減、庇によって25%の日射遮蔽効果がある。
・保湿力と抗酸化力が高いきびそを壁紙に応用。きびそとは、解雇が最初に吐き出す太くて硬い糸のことで、糸くずとして無駄になってしまうものを活用している。数値的根拠も有り、「富岡らしさ」を表現することもできている。ただ、一部剥がれたりという箇所もあったため、今後のメンテナンスに課題があるように感じた。
・屋根に落ちる雨水を地下ピット内の雨水貯留槽に貯めることで、各階のトイレ洗浄水として利用している。このことで、水道使用量を節約できる。
・越屋根と吹き抜けで高低差を利用した自然換気ができ、通常の2.5倍の換気量が実現。昼光利用で照明電力を20%削減し、太陽光パネルによって発電もしている。
災害の対策にも注力されていて、制震ダンパーを採用して最高レベルの安全性を確保している。一時避難者などの収容は1,000人可能で、水道、下水道、電気が停止した場合でも3日間対応可能となっている。
新庁舎建設の事業費は、47億円、財源は、合併特例債で30億円、庁舎基金で15億円、市税等が2億円となっており、市の実質負担額は11億円強となった。実質的な返済額は年間3607万円で、これらのことは市民向けパンフレットに明記して周知をしているようだ。
その後、庁内を回っていて気づいたことを列挙する。
・来庁した市民の8割は、1階で用事を済ませる事が可能。
・床吹出しの空調となっていて、絨毯に無数の穴が空いている。頭の高さで空気を循環させる仕組みに。
・庁舎前広場はくるくる広場と呼ばれ、キッチンカーに貸し出したり、イベントにも使用することを想定。視察にいった日は、賑わっているという状況ではなかった。
・高さ制限のため、14m未満に3階建ての構造となっている。天井が必然的に低くなることから、圧迫感をなくすため、鉄骨をむき出しにするデザインにしている。
・ガラス張りの庁舎となっており、衝突する事例も多かったことから、張り紙で注意喚起をすることになった。また、庁内のサインもデザイン性を高めたことで市民からわかりにくいとの声があり、作り直すことも検討しているとのこと。合併特例債の期限があったことから、時間的な制約があったものの、市民目線の庁舎という点の検討にもっと時間をかけていればという点が課題。
・世界遺産への影響は、景観条例には配慮した。文化庁へ問い合わせたが、特に問題はなかったようだ。
エコな庁舎を謳っているが、LEDとソーラーパネルによって電気代は130万円の削減、雨水によって水道代は110万円の削減、下水道は12万円の削減となったが、空調をガスで行っていることで、ガス代が400万円増加することとなった。全体で費用削減となるのか、事前に慎重に精査する必要がある。
次に、富岡市では、市長選公約で当初4棟としていた庁舎を、2棟とすることとなった。4棟は使いづらく、コスト削減にもつながった。ただ、見直し中に労務単価の上昇などで費用が上がっていくこととなったが、結果的には安く、使いやすくなっている。見直す場合には、その間の費用上昇に注意する必要がある。
また、富岡市役所は現地建て替えだが、敷地が十分にあったため、仮庁舎を建てずに建設できたという。駐車場も適時空いたスペースを活用できたという。松本市の場合、スペースがないため、仮庁舎や駐車場の問題がこれから大きな課題として挙げられる。早急にその見通しを立てるべきである。
2,町田市役所
新庁舎建設の経過については、以下の通り。
1970年に旧庁舎は開庁。駐車場が横にあったが、ベタの駐車場で20台しか置けなかったこともあり、狭隘化の問題があった。分庁舎借り上げていたが、民間からの借り上げなので費用も多くかかっていた。
1991年3月、庁舎を増築しようと検討が始まった。
1995年1月に阪神淡路大震災があり、1996年地震に対する危険性が指摘される。
1997年に初めて耐震防災情報拠点として、新しい土地に庁舎を建てるとして計画が見直された。
1999年に、48億円で用地を購入。
2000年6月に議会で特別委員会を設置し、本庁舎建て替えの検討が本格化する。
2002年3月に、旧庁舎の最低限の耐震補強工事を実施。
2003年4月に庁舎の問題について、5000人規模で無造作にアンケートを郵送。固定の人に出すと意見が偏ってしまうので、無造作に出したが、回収率もよく、80%代の回答があった。
2004年、市役所の位置を購入した用地の場所で確定。
翌年、新庁舎建設基本構想策定。
2006年1月に槇文彦氏が設計者に。
2007年3月~6月に新庁舎ワークショップを4回実施し、60~80名が参加した。市民の意見を上辺だけ取り入れることがないように意識し、行政だけでなく市民の意見を多く取り入れた庁舎とした。
2009年7月に実施設計が完成し、学識経験者や市民ワークショップの要望をできる限り反映。
同年10月に起工し、2012年に竣工している。
デザインだけでなく、環境にに配慮した庁舎として完成し、総事業費148億円となった。基本設計段階では168億円だったが、CM方式を取り入れたのが特徴となっている。
CM業者という第3者の目で、建築材料ひとつひとつ、椅子、備品などを精査してもらい、コスト削減を図った。CM業者に、現在の単価に合わせてもらって精査してもらった結果、1億円の委託料で、17億円の削減効果を発揮した。このことから、建設費用については第三者の目で見てもらうことが重要であり、本設計が終わった後、途中で再設計してもらうことで、数億円程度庁舎建設費用を削減できることを学んだ。
町田型総合評価方式により、事業費140億円中、30億円分は地元業者が受注することとなった。工事の模様を市民向けにLIVE中継するなどの工夫がなされている。
実際の引越業務は大変なものであり、土日しか使えないため、出先では2ヶ月かかった部署もあるとのこと。この覚悟はしておくことが必要とされた。
駐車場は195台となり、タイムズが経営している。土日は買い物客が来るので、そういうときはいっぱいになるが、土日の稼働率では採算が合わないと推測される。ただ、庁舎に入っているという宣伝効果は高い。市は、賃料をもらうことができる。
デザインや環境に配慮しているということで、公共建築賞を受賞した。
ワンストップロビーとなっており、迷わず到達できることを目標に1階受付のひとをコンシェルジュと呼んでいる。
川が流れていて、盆地になっている地形から、電気室は2階に設置した。2階までの浸水はないと想定されている。屋上には、ヘリコプター着陸はできないが、物資をおろせるホバリングスペースが有る。ただ、屋上の空調設備を手狭に設置したことで、そのメンテナンスが困難となっていることが課題として挙げられた。
屋上では、畑を設置して、さつまいも、キャベツなど屋上緑化に取り組んでいる。このように畑をやっている所はなかなか少ないが、地元の人が団体で手入れに来てくれている。
環境に優しい庁舎として、熱い空気を、上部に吹き上げて放出する構造をとっている。傍から見ると、ホテルみたいで立派すぎるのではないかとの指摘も有るが、これは環境に配慮したデザインによるもの。
PFI事業については、1999年PFI法制定を踏まえて、2004年基本計画制定委員会にてPFIについて検討してきた。直営方式と比較して、優位性どちらにあるかを検討した。
そして、経過として市民参加型で検討を進めてきたが、発注段階における参加が対応できなくなることから、従来型の直営のほうが市民参加しやすいと判断したとのこと。
代わりに、先程のCM方式で、コスト削減を図り、また、ワークショップで寄せられた市民提案10項目について反映することとした。
CM方式は非常に参考になる取り組みであり、ぜひ松本市が抱えている庁舎や市立病院の建設費用削減に活用できるか模索をしたいと考える。また、PFIの考え方についても参考となる事例であった。
3,茅ヶ崎市役所
旧庁舎は昭和49年に竣工したもので、平成20年時点ではまだ築35年であった。地上7階建てであったが、平成3年に耐震診断を実施したところ、最低Is値が0.48で、3階以上では床のたわみがある状態であった。屋上からの雨漏りや、外壁の劣化、インフラ設備の老朽化も起こっていた。平成22年に再度耐震診断を行った所、Is値が0.25となり、震度6強〜7程度の地震で倒壊または崩壊する危険性が極めて高いとされ、建て替え前の間、職員は大きな不安を抱えることとなる。安全性の確保の必要性から、緊急対策を実施した。来庁者が特に多く、Is値が0.3を下回る1階2階の事務室を分庁舎と仮庁舎に移転し、建物にかかる荷重低減のため、ホストコンピュータや大型印刷機を移設するといった対策を行ったが、本庁舎に残された3階以上の安全性の確保が課題として残ることになる。
市役所には、災害時には災害対応の拠点となることから、耐震性能としてIs値0.9の確保が必要であるという基本方針を定めることになった。
決定していた建て替えの時期を延ばした場合に考えられる耐震補強策もいくつかあるが、免震工法を含む耐震補強は建物の耐用年数を伸ばすものではなく、補強後20年したら建て替えが必要であることには変わりがない。老朽化した多くの設備機器の改修費も8.9億円必要で、バリアフリーや窓口対応の限界も迎えていた。更に、補強によって事務室の中央を補強ブレースが横断することとなり、事務室が更に狭くなり、通路幅が確保できなくなることが想定され、Is値0.9も結局達成できないことになる。
防災拠点として求められるIs値0.9を免震補強工事で達成するには、約38.6億円が必要であり、年間コストで計算すれば、2.89億円となる。建て替えた場合は2.15億円と算出され、建て替えの方が低額となることがわかった。
これらを踏まえ、緊急性と費用対効果の観点から、外部の有識者のアドバイスを受けながら、基本方針を策定するに至った。その中で、「早急な建て替え」「早急な建て替えをするために時間のかからない直接発注方式」「総事業費は64億円〜72億円」とする基本方針が示された。
これらをまとめて、当時、本庁舎建て替えの必要性として、次のような項目が列挙されることとなった。
地震はいつ来るかわからないので、早急な対応が必要。市内の公共建築物の中で最も耐震性能が低い。市役所は災害時に復旧復興の拠点として初動体制にすぐに入れることが重要。耐震補強では建物の耐用年数が伸びるわけではない。旧庁舎では長期的に温暖化対策、情報ネットワーク環境整備やバリアフリー対応が困難で、市民スペース開放などの市民の利便性向上に限界がある。また、窓口も分散化していることで市民サービスが低下している。
新庁舎基本計画策定のため、市民ワークショップを開催し、関係団体との意見交換、検討会議の設置を行った。
計画時の事業費は、建設工事に64億円、付帯費用8億円で、計72億円。財源は22億円が地方債で、基金が15億円、県貸付金が6億円、一般財源が27億円となっていた。
建設に至るまでの経過が、耐震性能の低さによって急展開となっていることから、住民からの反発も大きかったようで、市民や関係団体との意見聴取や深掘りについては、もっと時間をかけてという声もあるようだ。ワークショップについても、なんでもオープンに聞いてしまうというわけではなく、市民のふれあいプラザについて意見を聞くという形をとったとのこと。
こちらの事例でも、労務単価上昇によって、時間が経つと建設費がどんどん上昇してしまうことの危険性について指摘があった。松本市も平成37年供用開始を目指しているが、東京五輪が終わった後の単価下落を狙って、建設を先伸ばしにしている自治体や企業もある可能性があるため、2020年以降もこの傾向が続くことも注視していかなければならない。
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