中核市議会だよりコンクール最優秀賞の呉市議会。松本市も審査項目を精査してデザインの改良を!
こんばんは、松本市議会議員の青木たかしです。
昨年行った議会運営委員会による視察で、松本市が目指す中核市である呉市議会の視察を行っています。その報告を改めてこちらでまとめます。
※コロナウイルス未発生の2019年夏の視察です。
1,議会報告会について
呉市議会では平成22年度から議会報告会を義務規定として毎年行なっており、常任委員会ごとに各地域に出向くことで実施しています。各委員会で事前に勉強会・発表練習を行った上で臨まれているようです。
取り扱うテーマとしては、交通、新庁舎建設などの市民が共通で注目している項目や、新年度予算の構成を設定しています。
平成27年度からは各常任委員会ごとにテーマを持って報告会を実施することとして、例えば総務委員会は投票率向上、民生委員会では子育て支援と設定して、各テーマに市民意見を反映させていくこととしました。特に、平日は夜間に開催し、若い世代の参加を促すことを意識されています。平成28年度から、高校生とも意見交換をすることとして、平成29年度には学校数を5校に増やすこととなりました。ある学校ではホールを使って全校生徒に対して議員の役割について説明し、その後意見交換とする形式も行なっているとのこと。
回を重ねるにつれて参加者は減少傾向にあり、次第に常任委員会に関係のある団体へ出向いて報告と意見交換を実施したり、出向く学校の数を増やすようにしているとのことで、松本市議会も同傾向にあることから、開催方法の工夫が必要となっています。
呉市議会では、議会報告会を契機として空き家基本条例を議員提案政策条例として制定したり、
未就学児までであった医療費補助を、小学生まで対象とすることを議会として提言を行い、実現に至ったという実績があるとのことでした。そういったサイクルを、改めて議会報告会の場で説明し、意見の反映を実感してもらえるようになっているので、この点、松本市では議会全体の取り組みに昇華できるように意識して整理することの必要性を感じます。
2,市議会だよりについて
松本市議会と同じく定例会ごと、年4回発行している市議会だよりですが、呉市では29年度までは市の広報誌の中で発行していました。呉市が中核市に移行した際に、中核市議長会として議会だよりのコンクールを行なっていたことから、呉市議会として研究し、手に取ってもらうことを意識したデザイン・フォントにて発行したところ、令和元年度に最優秀賞を受賞することとなりました。
あきる野市議会の議会だよりも参考にしたと言うことですが、雑誌のような表紙やコピーが並び、中の文章のレイアウトやイラストも違和感なく市民の方が手に取れるものとなっています。広報誌は読まれなければ意味がないので、こういった工夫は松本市議会でも大いに検討すべき事項であると感じます。93,000部発行し、事業予算はおよそ900万円とのことでした。
3,新庁舎建設と議会機能について
新庁舎建設にあわせて、議場も多く工夫が施されています。演壇・質問席にはパソコンやタブレット端末の映像入力端子があり、スクリーンを活用した質問も可能となっています。子ども預かりスペースも議場内に配置され、椅子に座りながら傍聴できるというのも利便性の面から当市議会でも検討すべき点です。一方、傍聴席から議場の質問者とモニターしか見えない構造となっており、そのあり方も事前に検討すべき点であると感じました。
議場外で最も印象的だったのは議会図書室です。専属の司書が1名配置されており、その日の新聞のスクラップや情報を希望する議員に共有したり、議員が求めているデータや書籍を調査・取り寄せをしたり、テーマを決めた議会図書室情報誌を刊行しており、議会の政務調査権能を高める上で重要な役割を果たしています。図書予算は、松本市議会が年間10万円であるのに対して、呉市議会では要望によって段階的に引き上げられ、現在年間30万円となっています。
なお、議長応接室は会派代表者会議としても使用されており、部屋の活用・用途はさまざまな可能性を検討しておくことも必要です。
新庁舎建設事業は、平成11年、「大きな財政負担となるが、建て替えるべき」との提言が検討懇話会より提出されたものの、近隣町との合併の話が持ち上がり、庁舎規模に関わる大きな検討事項が発生したため、一時保留となった経過があります。「財政健全化の目処が立った頃に新庁舎建設に取り組む」という方針が平成20年に当時の市長から表明され、平成28年に竣工しています。議会が関わったのは、設計者の選定方法、土地利用計画、市民ホールの客席の形態、建設工事の発注方法であったということです。
4,所管事務調査について
委員会運営をするにあたって、委員会への報告案件は市側の裁量で決められている上、行政報告を持って議会の同意が得られたかのような政策執行がなされ、議会は報告を聞くだけで何も意見を述べることが出来ないといった現状があります。執行部が議会へ報告したい内容を聞いて質疑をするという受け身の姿勢ではなく、委員会主導でテーマを設定し、調査・資料要求を執行部に行うという能動的な取り組みが平成21年から呉市議会では始まりました。松本市議会では、常任委員会ごとのテーマ研究として、1年ごとにテーマ設定と政策提言(または研究報告)を行っていますが、議会としての政策提言という結果に固執してしまうことの弊害と、1年間しか期間がないということの問題点が俎上に上がっています。呉市議会では常任委員会の任期を2年としていることで、テーマを深掘りすることができているため、松本市議会でもテーマ研究を深める上では検討しなければならない事項となっています。
また、テーマを深掘りする前提として、「提案する調査項目・提案理由・当市の課題・期待される効果」を事前に各委員で洗い出した上、調査を進める上で論点となる「あるべき姿・現状・当市の課題」についても各委員で整理をしていることは、当市議会でも大いに参考とすべき点です。
実績として、総務委員会では職員採用の年齢引き上げや選挙公報条例の制定、民生委員会では民生委員協力員制度の創設や乳幼児等医療費助成制度の拡充、文教企業委員会では小中学校のエアコン整備や中学校給食の早期完全実施、産業建設委員会では商工振興課内に販路拡大グループを設置したり、市営車駐車場廃止につなげるなど、多くの成果を上げられています。
委員長のリーダーシップに委ねられる部分もあるということですが、一方通行となる委員間討議を発展させながら、実績につながっていない提言についての検証の仕組みについても検討されているようです。松本市議会でも、委員会としてのテーマ設定について、改めて実効性や意義を深められるように、制度を検証すべきであると感じました。
5,災害対応について
近年多発する災害を受けて、議長が必要に応じて設置し、議長・副議長・会派代表・無所属議員代表者で構成する災害対応連絡会議を平成28年に設置することとして要領を策定しました。安否確認や情報提供はタブレット端末を活用し、発災時に議員は連絡体制の確立、地域の災害対応に資すること、被災地状況を本部に共有することとしました。
また、他都市では、災害初期に議員個々が当局に問い合わせや要望をすることで、当局が災害対応に専念できるよう、災害初期段階での要望はこの連絡会議に提出することと定めています。これにより、議会側の窓口を一本化すること決めています。現時点で松本市議会では議員要望に関する窓口一本化がなされておらず、この点はタブレット導入を契機に早急に検討をすべき点です。なお、議会事務局の対応は、議員にタブレットを通して情報共有することとしています。
事前にこのような要領を策定し、連絡会議を検討した状況で、呉市において平成30年7月豪雨で被災することとなります。発災した7月6日、災害対策本部が設置され、タブレットで安否確認をしたところ、3時間で全議員の確認が完了したといいます。
7月18日に災害対応連絡会議を開催し、各会派で要望をとりまとめ、市長に要望書を提出しました。議会運営委員会は断続的に開催され、被害状況や対応を議会に報告する全員協議会は8月13日に開催されました。これまでの災害では、1週間以内に議会に報告すべく全員協議会を開催していましたが、タブレットで毎日のように本部の情報を共有していったことで、今回は1ヶ月以上経過してからの開催でも問題がなかったといいます。事務局から議員へは通算520件の情報提供がなされましたが、紙媒体では不可能なレベルの情報共有が、タブレットを活用することによって24時間、細かく共有することができたとのこと。
また、議員からの要望については連絡会議である事務局へ集約したところ、574件の情報提供があり、事務局で内容を精査して各種対応をしたといいます。この双方向のやりとりについても、松本市議会で早急に導入すべき事項であると感じます。
なお、9月定例会では代表質問を取りやめる、決算特別委員会も2日間とする、会期を26日から12日間とするといった柔軟な対応を行ったということでしたので、こちらも参考としながら、当市議会における災害対応の検討を進めていくべきと強く認識しました。